「もと」と読む漢字は多々ありますが、その中でも「元」「基」「本」は特に似通った意味を持っています。
ここでは「元」「基」「本」の意味の違いや使い分けについて詳しく解説していきます。
「元」「基」「本」の意味
「元」の原義は「根源」であり、そこから派生して幅広い意味を持ちます。物事の発端やはじまり、過去の状態、ある対象の側、などが「元」の代表的な意味合いです。
「基」は「基づく」という言葉に見られるように、物事が成り立つための拠り所という意味を持ちます。
「本」は木の根本(ねもと)が原義であり、そこから転じて「根本(コンポン)」を意味するようになり、物事の発端や拠り所を表すようになりました。
「元」「基」「本」の違い・使い分け|独自の意味
まず、「元・基・本」の意味をそれぞれ「物事の根源・根拠・根幹」と上述しましたが、これは便宜的に使い分けているだけで正確な割り当てではありません。「元・基・本」は違いが曖昧であり、全て「根本」という意味を共通して持っています。
完全な使い分けが可能なのは、それぞれが「根本」意外に備える独自の意味で使用される場合、特定の慣用句や用語で使用される場合です。
「元」だけが使える場合
「元スポーツ選手」や「元恋人」、「元教師」などのように、「以前にその状態にあった」という意味を表す場合は「元」のみが使用可能です。
また「足元」「手元」「胸元」などのように、「その対象の付近」を表す場合も「基・本」は使用できません。
「元」のみが使用可能な慣用句や用語は以下のような物があります。
- 元も子もない
- 元々
- 元手
- 元鞘
「基」だけが使える場合
「もとづく」を漢字で表す場合、「基づく」が正しい表記となります。
「実話を基にした映画」「資料を基に計画を考える」などのように「〜をもとに」と表現する場合は、一般的には「基」が使用されます。
「基」のみが使用可能な慣用句や用語は以下のような物があります。
- 基づく
- 基を築く
「本」だけが使える場合
「本」は「元」とほぼ同義であり、「本」が持つ意味はほぼ全て「元」に内包されています。そのため「本」のみが使用できる例は、特定の慣用句や用語が中心となります。
- 日の本(日本の異称:ひのもと)
- 本を正す
- 孝は百行の本
- 旗本(近衛兵)
「元」「基」「本」の違い・使い分け|共通した意味
ここまで「元・基・本」の意味による使い分けを解説してきましたが、続いて「根本」という共通した意味での使い分けについて解説していきます。
まず、以下の二点を抑える必要があります。
- 「元」と「本」はほぼ同義であり、意味の違いはほとんどない。しかし「元」の方が使用頻度が高く、一般的には「元」が優先して使われる。
- 「基」は物事が成り立つ拠り所を意味するが、物事の根源を原義に持つ「元」も、巨視的には「基」が指す範囲をその意味に含む。
数学的に表すと以下のようになります。
「元」≒「本」 「元/本」∋「基」
会話や文章を簡潔で明瞭にするためには、曖昧な言葉よりも正確な言葉を優先するべきなので、何かを参考にしたり前提とする場合には、「物事が成り立つ拠り所」を限定的に表すことができる「基」を使用することが望ましいです。
漠然と物事の起源について表すときには「元」と「本」の両方が使用できますが、基本的には「元」が優先されます。理由としては、「元」が広く定着していることと、「本」には「ほん」という別の、しかも主要な読み方が存在していることが挙げられます。
本(ほん)との混同を避ける
「災の本」「本の世界」「本に戻す」などと言った場合は、「災の原因/災害について記述された書籍」「戦争などで荒廃する前の世界/小説の中の世界」「前の状態に戻す/詩織などをページの隙間に戻す」のように、二通りの解釈が可能になります。
「元」を使用することで、このような「本(もと)」と「本(ほん)」の混同を避けることができます。
最終手段
どうしても意味の使い分けができない、判別が困難、どれを使うべきか分からない、といった場合の最後の手段として、「ひらがなで書く」があります。
「もと」と表記することで、「もと」と読む漢字全てに対応することが可能です。表外読み等にも気を配る必要がなくなるので、絶対に間違えてはいけない場合などにはひらがなで書いてしまいましょう。