いわゆる「神の見えざる手」によって、市場は自然に最適な状態へと収束していくとされています。
では、どうして政府が必要なのでしょうか。実は神の見えざる手は万能ではなく、「市場の失敗」を引き起こすからです。それを改善するために政府は必要とされます。
この記事では市場の失敗について簡単に解説してきます。
市場とは
市場とは取引が行われる場所のことです。
市場では財・サービスの売買や、情報の交換など、さまざまな取引が行われます。
また、場所といっても必ずしも具体的な場所が存在するとは限らず、労働市場や金融市場のように特定の場所が決まっていない抽象的な場合もあります。
市場では需要と供給が互いに作用しあって、財の価格を決定します。
各個人が自分の利益だけを自由に追求する完全競争市場においては、需要と供給が最適な状態へと導かれ、価格は均衡へと収束します。
これを市場の価格調整メカニズムまたは神の見えざる手と呼びます。
市場の失敗とは
市場の失敗とは、市場がパレート最適な状態を達成できない現象のことです。
パレート最適とは一番効率よく便益が配分されている状態のことです。
各個人が自由に意思決定する完全競争市場においては、本来であれば市場のメカニズムが働くおかげで、価格は需要と供給が一致する均衡に収束していくとされています。
しかし市場のメカニズムは万能ではなく、全体の便益が最大になる一番効率的な状態、つまりパレート最適な状態を達成できない場合があります。
これを市場の失敗と呼びます。
市場の失敗の要因には主に「外部性」「公共財」「情報の非対称性」「規模の経済」などがあります。
一つずつ見ていきましょう。
外部性
外部性とは、ある経済主体の行動が他の経済主体に影響を及ぼすことです。
特にメリットをもたらすものを正の外部性(外部経済)、デメリットをもたらすものを負の外部性(外部不経済)と呼びます。
外部経済には観光名所やジャスティンビーバーからの「いいね」、外部不経済には公害や環境破壊などが当たります。また昨今においては、旅行や外食などの活動が新型コロナウイルスの感染拡大に繋がることも外部不経済と言えます。
具体例 公害
環境を考えずに利益だけを追求し、工場から汚染物を排出し続ける企業があるとします。
企業は工場を稼働させることによって最大の利益を獲得できますが、公害によって近隣住民の健康が損なわれてしまうため、経済全体の利益には損失が生じます。
パレート最適な状態とは言えないため、これは市場の失敗です。
公共財
公共財とは公園、道路、国防、教育などの財・サービスのことです。公共財を定義する性質として以下のものがあります。
- 誰も争わずに消費できる(非競合性)
- 対価を支払わない人を財・サービスの恩恵から排除できない(排除不可能性)
例えば公園や道路は誰でも利用することができます。もちろん大量の人が集まってしまうと物理的に溢れてしまう人もいますが、基本的には全員が同じ権利を持ち、自由に利用できます。
また、CO2排出量削減は地球規模での温暖化対策ですが、排出量削減に参加しない国も自動的にその恩恵を受けることになります。このように対価を払わずに利益だけを得る存在を、フリーライダーと呼びます。
一方的に得をするフリーライダー問題があるために、公共財は供給が過少になります。
頑張っても頑張らなくても給料が同じなら、サボり始めるサラリーマンが増えるのと似た原理です。
具体例 知識
知識は誰にでも利用でき、誰もがその利益を享受できるため、公共財に当てはまります。
知識は利用者が増えれば増えるほど効果が高まる相乗効果を持つため、供給を増やすべきなのですが、フリーライダー問題が存在するために供給が過少になります。
それを解消するために政府が市場に介入し、義務教育を定めたり知的財産権を保証しています。
しかし知的財産権のとしてアンチテーゼとして、エイズ治療薬などの医薬品があります。フリーライダーが得をすることになりますが、人道的に考えて知識を占有するべきではないため、ジェネリック医薬品などが認められています。
情報の非対称性
情報の非対称性とは、売り手と買い手が持つそれぞれの情報量に差がある状態のことです。
売り手は商品に対して豊富な情報を持ち、買い手は売り手から提供される情報に依存するしかありません。
基本的に売り手は商品の欠陥やデメリットをあえて言う必要もないので、それらを隠す傾向があり、メリットのみを喧伝します。そうすると買い手にはリスクが発生するので、購入を控えるようになってしまいます。
すると需要が減少してしまうので、市場の失敗に繋がります。
詐欺なんかは情報の非対称性を悪用した典型的な例です。
具体例 知識
知識は誰にでも利用することができ、誰もが利益を享受できます。
知識は利用者が増えれば増えるほど相乗効果によって恩恵が大きくなるのですが、フリーライダー問題があるために供給が過少になってしまいます。
それを解消するために市場に政府が介入することになります。義務教育を定めたり、知的財産権を認めたりして、知識の供給を後押ししているのです。
ただ、知的財産権に関してはエイズ治療薬などの医薬品がアンチテーゼとしてあります。フリーライダー問題を考慮しても、人道的に考えて知識を自由化したほうが世のためになる場合があるので、ジェネリック医薬品などが認められています。
規模の経済
規模の経済とは、企業規模が拡大することによって、製品一つあたりの生産コストが減少していく現象のことです。
言い換えれば大量生産によって利益が増加するということです。
大量生産によって利益を得た企業は、その利益で工場を増やしたり機械を投入したりできるので、さらに生産力は上がります。
そうすると雪だるま式で企業規模も利益も大きくなっていき、やがてはその産業は淘汰されて大企業だけが生き残ることになります。その行き着く先は独占・寡占です。
独占状態の不完全競争市場では、本来需要と供給のバランスが決定する価格を、一強状態にある大企業が決定するようになります。
すると生産量を減らして価格を釣り上げるインセンティブが働くので、市場は過少供給となります。
それでは本来の均衡を達成できず、企業の便益は増えても市場全体の便益が減るので、市場の失敗が起こります。
この対策として、多くの国で独占禁止法が制定されています。
まとめ
「外部性」「公共財」「情報の非対称性」「規模の経済」は市場や財の性質を起因とする失敗でしたが、市場の失敗には他にも災害や疫病などの、予測できないリスクが発生する不確実性があります。
需要と供給が正しく働いていたとしても、地震や隕石によって経済基盤が壊れれば、市場は失敗します。
その場合にも、人為的に市場をコントロールできる政府が必要となります。